未来の記憶のために
フェデリコ・トランファ
参照:本誌 pp.24–33
アウグスタ・ラウリカ考古学センター
Augst, Basel Landschaft,




























































アウグスタ・ラウリカ(現アウグスト)は、バーゼルからさほど遠くない、ライン川南岸に建設された古代ローマの重要な植民都市であった。紀元前44年から衰退の始まる紀元後260年まで、アウグスタ・ラウリカは住民数が
アウグスタ・ラウリカ(現アウグスト)は、バーゼルからさほど遠くない、ライン川南岸に建設された古代ローマの重要な植民都市であった。紀元前44年から衰退の始まる紀元後260年まで、アウグスタ・ラウリカは住民数が15,000人に達するまで成長した。注目に値する規模は、アルプス以北で最大の劇場の存在によって証明される。ローマ帝国末期に都市は徐々に重要性を失い、その痕跡は田園地帯に散らばるのみとなった。
アウグスタ・ラウリカ(現アウグスト)は、バーゼルからさほど遠くない、ライン川南岸に建設された古代ローマの重要な植民都市であった。紀元前44年から衰退の始まる紀元後260年まで、アウグスタ・ラウリカは住民数が15,000人に達するまで成長した。注目に値する規模は、アルプス以北で最大の劇場の存在によって証明される。ローマ帝国末期に都市は徐々に重要性を失い、その痕跡は田園地帯に散らばるのみとなった。本稿で取り上げる考古学センターは、スイスで最も重要な歴史遺産のひとつを管理する拠点であり、その発掘現場からすでに200万点以上の遺物が出土している。2014年に公開設計競技が行われ、カラムーク+クオ建築設計事務所が設計の依頼を受け、このほど完成した。予算という厳格な障壁(センター建設への予算計上は、許容できる総額を定める住民投票の厳しい検査も通過した)と向き合ったプロジェクトは、その外観において、スイスの風景に点在する簡潔な産業建築を参照している。事務室、修復工房、作業場、倉庫は、以前は14ヶ所に分散していたが、現在は堅牢かつ経済的な空間システムの内部に集められた。そこは部門間の視覚的透明性が強調され、共同体への帰属意識を促す。じつに実用的でじつに表情に富む建築的容器コンテナは、多種多様な活動を迎え入れるために不可欠な柔軟性を備えている。2層吹き抜けになった一部の空間は、屋根が建物の輪郭を越えて立ち上がり、ヴォリュームの奥行きのために暗くなるようなところまで自然光を引き入れる。これらの部分には休息と仕事に関わる共有機能が置かれた。センター長の考古学者ダニエル・スーターが強調するように、カラムーク+クオのプロポーザル案の基盤となる革新的アイデアは、歴史的に相容れないと見なされた諸機能を同じ屋根の下に集め、センターに日々出入りする人々の慣習を抜本的に良い方向に変えることであった。地下に遺跡や遺物が存在することが確実な考古学公園の内部に建つため、建物の構造は浅く連続する基礎、すなわち地表に干渉することなく浮く「筏」を起点に設計された。同じ理由から地下空間はなく、設備スペースは建物内に組み込まれ、屋根を介して屋外と連絡する。センターの現在の姿は、第2期の、考古学遺物を保管する格納庫の工事の完了を反映したものである。長く引き伸ばされた大収蔵庫は、満杯になるには数十年の発掘作業が必要なほどで、ゆくゆくは同じ軸線上に増築が可能である。収蔵庫という単一機能は、周囲の壁と屋根に開口部がないことに反映されている。建築家たちによれば、将来的な必要性に対する建物の適応能力こそ、設計構想の中心であった。現に、遺物の数がほぼ毎日増えたとしても、多様な部門(考古学、保存、調査、保管、維持管理)の構成も、新しい技術や作業方法の到来に即して発展的に変化し続けるであろう。この変化する条件に対して、センターの建築はオープン・システムを採用して応答した。母体となる構造は、スタッフ、建物、技術サービスの動線を妨げずに各部屋の拡張または縮小を可能とする。同時に、屋内空間の直線的な構成により段階的に建物を増築しつつ、完成した外観を維持することができる。さらに、将来的に考古学調査がセンターの地下部分を対象としなければならなくなったら、鉄骨構造を簡単に解体し、部材は再利用するか別の場で有効活用できる。2017年にサステイナブル建築に贈られるホルシム財団賞を勝ち取った本プロジェクトは、パッシヴでロー・テクノロジーのシステムを採用し、それと同時に、最先端の労働条件を実現する。ヴォリュームのたっぷりした横幅にもかかわらず、屋内に自然光が欠けることはない。設備の占める面積を最小化するため、機械式の換気設備は最小限に減らされ、不可欠な場所のみ自然換気と組み合わされた。同様に、考古学コレクション保管庫の湿度管理はすべて、粘土の物理的特性に基づくパッシヴな方法で行われる。この素材は、倉庫群内部の壁面に設置されたプラスター仕上げのパネルと、すべての保管棚の平板ブロックに使われている。単純な湿度モニタリングにより、棚の上あるいは閉鎖棚の中に置く粘土の量を増減するだけで即座に変えられるため、温湿度調整のダクト・システムに頼らなくてよい。さらに、広い屋根の上に設置された太陽光発電モデュールのおかげで、建物の低いエネルギー消費は、周辺の20世帯の電力消費を賄うのに十分な余剰エネルギーに転換される。アウグスタ・ラウリカ考古学センターの完成により、ウナル・カラムークとジャネット・クオは事務所設立(チューリヒ、2010)から10年余りで、知性と合理性に導かれた美学的特質を備えた事務所のプロフィールを確実なものにした。賢明であるが言いなりではない事務所の姿勢は、ドイツ語圏スイスのように高度に競争的な環境において重要な水準とゴールに到達することを可能にした。新しい考古学センターにおいて、古代と現代の出会いがレトリックに場を譲ることがないのは、その学術的な側面が重視されるからである。またこの出会いから生まれるフォルム=建築がこの目的に厳密に限られていることは、高く評価できる。近くのE60高速道路を走る人は、長いファサードを覆う抽象的なステンレス・スティールのパネルの裏側に、何が置かれているかを想像もできない。しかしまさにパネルの抽象的な「アンダーステートメント(控えめな表現)」ゆえに、屋内に整然と並ぶ大量の異種混交的オブジェの集合が一段と驚異に見えるのである。
- 作品 アウグスタ・ラウリカ考古学センター
- 規模 敷地面積 9,300㎡
- スケジュール 設計競技 2014年/第1区画施工 2019-21年/第2区画施工 2021–23年
- 所在地 Augst, Basel Landschaft, Switzerland
- 撮影 Maxime Delvaux, Mikael Olsson
「アウグスタ・ラウリカ考古学センター」
Augst, Basel Landschaft,
アウグスタ・ラウリカ(現アウグスト)は、バーゼルからさほど遠くない、ライン川南岸に建設された古代ローマの重要な植民都市であった。紀元前44年から衰退の始まる紀元後260年まで、アウグスタ・ラウリカは住民数が15,000人に達するまで成長した。注目に値する規模は、アルプス以北で最大の劇場の存在によって証明される。ローマ帝国末期に都市は徐々に重要性を失い、その痕跡は田園地帯に散らばるのみとなった。本稿で取り上げる考古学センターは、スイスで最も重要な歴史遺産のひとつを管理する拠点であり、その発掘現場からすでに200万点以上の遺物が出土している。2014年に公開設計競技が行われ、カラムーク+クオ建築設計事務所が設計の依頼を受け、このほど完成した。予算という厳格な障壁(センター建設への予算計上は、許容できる総額を定める住民投票の厳しい検査も通過した)と向き合ったプロジェクトは、その外観において、スイスの風景に点在する簡潔な産業建築を参照している。事務室、修復工房、作業場、倉庫は、以前は14ヶ所に分散していたが、現在は堅牢かつ経済的な空間システムの内部に集められた。そこは部門間の視覚的透明性が強調され、共同体への帰属意識を促す。じつに実用的でじつに表情に富む建築的容器コンテナは、多種多様な活動を迎え入れるために不可欠な柔軟性を備えている。2層吹き抜けになった一部の空間は、屋根が建物の輪郭を越えて立ち上がり、ヴォリュームの奥行きのために暗くなるようなところまで自然光を引き入れる。これらの部分には休息と仕事に関わる共有機能が置かれた。センター長の考古学者ダニエル・スーターが強調するように、カラムーク+クオのプロポーザル案の基盤となる革新的アイデアは、歴史的に相容れないと見なされた諸機能を同じ屋根の下に集め、センターに日々出入りする人々の慣習を抜本的に良い方向に変えることであった。地下に遺跡や遺物が存在することが確実な考古学公園の内部に建つため、建物の構造は浅く連続する基礎、すなわち地表に干渉することなく浮く「筏」を起点に設計された。同じ理由から地下空間はなく、設備スペースは建物内に組み込まれ、屋根を介して屋外と連絡する。センターの現在の姿は、第2期の、考古学遺物を保管する格納庫の工事の完了を反映したものである。長く引き伸ばされた大収蔵庫は、満杯になるには数十年の発掘作業が必要なほどで、ゆくゆくは同じ軸線上に増築が可能である。収蔵庫という単一機能は、周囲の壁と屋根に開口部がないことに反映されている。建築家たちによれば、将来的な必要性に対する建物の適応能力こそ、設計構想の中心であった。現に、遺物の数がほぼ毎日増えたとしても、多様な部門(考古学、保存、調査、保管、維持管理)の構成も、新しい技術や作業方法の到来に即して発展的に変化し続けるであろう。この変化する条件に対して、センターの建築はオープン・システムを採用して応答した。母体となる構造は、スタッフ、建物、技術サービスの動線を妨げずに各部屋の拡張または縮小を可能とする。同時に、屋内空間の直線的な構成により段階的に建物を増築しつつ、完成した外観を維持することができる。さらに、将来的に考古学調査がセンターの地下部分を対象としなければならなくなったら、鉄骨構造を簡単に解体し、部材は再利用するか別の場で有効活用できる。2017年にサステイナブル建築に贈られるホルシム財団賞を勝ち取った本プロジェクトは、パッシヴでロー・テクノロジーのシステムを採用し、それと同時に、最先端の労働条件を実現する。ヴォリュームのたっぷりした横幅にもかかわらず、屋内に自然光が欠けることはない。設備の占める面積を最小化するため、機械式の換気設備は最小限に減らされ、不可欠な場所のみ自然換気と組み合わされた。同様に、考古学コレクション保管庫の湿度管理はすべて、粘土の物理的特性に基づくパッシヴな方法で行われる。この素材は、倉庫群内部の壁面に設置されたプラスター仕上げのパネルと、すべての保管棚の平板ブロックに使われている。単純な湿度モニタリングにより、棚の上あるいは閉鎖棚の中に置く粘土の量を増減するだけで即座に変えられるため、温湿度調整のダクト・システムに頼らなくてよい。さらに、広い屋根の上に設置された太陽光発電モデュールのおかげで、建物の低いエネルギー消費は、周辺の20世帯の電力消費を賄うのに十分な余剰エネルギーに転換される。アウグスタ・ラウリカ考古学センターの完成により、ウナル・カラムークとジャネット・クオは事務所設立(チューリヒ、2010)から10年余りで、知性と合理性に導かれた美学的特質を備えた事務所のプロフィールを確実なものにした。賢明であるが言いなりではない事務所の姿勢は、ドイツ語圏スイスのように高度に競争的な環境において重要な水準とゴールに到達することを可能にした。新しい考古学センターにおいて、古代と現代の出会いがレトリックに場を譲ることがないのは、その学術的な側面が重視されるからである。またこの出会いから生まれるフォルム=建築がこの目的に厳密に限られていることは、高く評価できる。近くのE60高速道路を走る人は、長いファサードを覆う抽象的なステンレス・スティールのパネルの裏側に、何が置かれているかを想像もできない。しかしまさにパネルの抽象的な「アンダーステートメント(控えめな表現)」ゆえに、屋内に整然と並ぶ大量の異種混交的オブジェの集合が一段と驚異に見えるのである。
- 作品 アウグスタ・ラウリカ考古学センター
- 規模 敷地面積 9,300㎡
- スケジュール 設計競技 2014年/第1区画施工 2019-21年/第2区画施工 2021–23年
- 所在地 Augst, Basel Landschaft, Switzerland
- 撮影 Maxime Delvaux, Mikael Olsson
「ソーシャル・ハウジング2104」
Augst, Basel Landschaft,
設計=
参照:本誌 pp.24–33
- 「ソーシャル・ハウジング2104」
- 規模 敷地面積 9,300㎡
- スケジュール 設計競技 2014年/第1区画施工 2019-21年/第2区画施工 2021–23年
- 所在地 Augst, Basel Landschaft, Switzerland
- 撮影 Maxime Delvaux, Mikael Olsson
