つましい建築?
フェデリコ・トランファ
参照:本誌 pp.24–33
なぜIBAVIが実現したプロジェクトに着目するのか。これは、読者の間に関心を引き起こし得る建築を選び出す者にとって妥当な問いである。バレアレス社会住宅協会(IBAVI)は、ヨーロッパ全体を見渡しても特異な現象である。IBAVIは10年も経たないうちに、助成金を受けた住宅建設事業を約46件も推進し、実験を自分たちの効果的な武器にした戦略により、凝り固まった慣行を変革している。その成果が、新しい住宅タイポロジーを研究し、現地の素材と工業部材を組み合わせた工法を試し、公的な設計競技を開催してスペイン全体で最も興味深い建築設計事務所を巻き込む数々のプロジェクトである。全体として、経済的により豊かであまり周縁的でない場所でも同種の実験的事業には滅多に見られない、高いクオリティを備えている。とは言え、このモデルはどれほど応用可能なのかと問う必要があろう。ヨーロッパの他の地域だけでなく、スペイン国内、あるいは同じバレアレス諸島でも。この地域では、政権交代と政策変更の影響によりIBAVIの実験的性格が弱まるリスクを抱えている。だからこそ、彼らの仕事を観察し続ける価値がある。それは他の場所でIBAVIの仕組み全体が再現されるよう願うというより、彼らの仕事からプロジェクトの構成要素、空間の仕掛け、戦略、技術を抽出するためである。つまるところ、そこに残るのは建築である。建築とともに、批評的価値はある。
『CASABELLA』952号(2023)において、われわれは「バレアレス・モデル」に1章を割き、ヴァナキュラーな伝統と革新の関係を巡るプロジェクトと批評的対話を取り上げた。2年の時を経ても、問いは未回答のままである。すなわち、これらの実験で最も興味深い要素はどれなのか? 本稿に続くページで近年の2つのプロジェクトに注目したい。パルマ・デ・マヨルカのHアルキテクテスによるものと、エスポルレスのロペス・リベラ・アルキテクトスのものである。2つは相異なる建築的介入であるが、思慮深く、つましいと呼べるような姿勢が共通している。ここでわれわれの視点を明らかにしておきたい。ここで言う「つましさ(frugalità)」とは清貧主義的美学ではなく、ヴァナキュラーへの郷愁でも、「わずかのもの(間に合わせ)」の修辞でもない。これは1つの設計戦略であり、技術過多や中立を装う標準的解に対する批評的な立ち位置である。われわれは長らく建物を知的な機械・装置と捉え、あらゆる不足を技術とオートメーションで埋め合わせられると考えてきた。今回取り上げるプロジェクトはパラダイムを転覆する。高い情報処理機能をもつべきは住宅ではなく、賢くあらねばならないのは住民たちである。そこで建築は、この知能が十分に発揮できる諸条件を創出せねばならない。サステイナビリティもこの観点から再読される。環境汚染成分の排出量削減、消費量の抑制、現地の素材あるいは環境負荷の低い素材の使用は、上から課された法規や社会的規準(抽象的で批判の余地あるLEED条項)から派生するのではなく、充足のロジックから生じなければならない——持てるものを使って作る、物理的、社会的、気候的コンテクストを考慮して設計する。そこから生み出されるのは、構造や素材、用途に傾注した形姿という陥穽に嵌まらず、カラッとした、時に無骨な建築である。それは欠乏の建築、カルヴィニズムが勧める節約の建築ではなく、穏当で適切な配分の建築である。これらの実験をネオ・ヴァナキュラー美学に引き戻すことのリスクは、正当な批判であるものの、現実とは符合しない。つましさの立ち位置は、ノスタルジーをもって歴史を見たりせず、創造的な進取の気性をもって歴史と向き合う。例えば、バレアレス諸島で採れるマレス砂岩あるいは打ち固めた土ブロック(版築)を使うのは、象徴的な行為ではなく、実用的な建設行為である。これらは技術的、社会的、社会的、経済的な選択であり、間接的に文化的な選択にもなる。
本稿で注目する2つのプロジェクトのうち1つめは、ロペス・リベラ・アルキテクトスがエスポルレスで実現したもので、道路に沿って並ぶ切妻屋根の伝統家屋の連続の間に挿入された建物である。建築家たちの選択はコンテクストと連続させつつそこに建物を挿入するもので、それにより切妻屋根の輪郭、道路と並行する配置、歴史的建造物のコンパクトさを踏襲し、都市に向いたファサードの形態的一貫性を維持し、既存物と対話できるヴォキャブラリーを採用した。1階をヴォイドとする隅部の洗練された処理により、公共のベンチを挿入したエントランスが強調される。このプロジェクトは静かながらラディカルな選択から生まれた。なによりもまず、タイポロジーの特徴である。18戸のアパートメントは1つのコンパクトなヴォリュームに収められ、ヴォリュームは主要道路と並行するよう、居住環境の点で最も望ましい南北方向に配置されたため、各住戸はヴォリュームの奥行き方向に展開し、無駄な空間が減った。2つめのヴォリュームは建物の舞台袖を完結させる役目を負った。ここにはエントランス・アトリウム、垂直動線、1階の管理人住居、上層階の共有空間が置かれた。北側のファサードはコンパクトな外観で、二重の耐力壁と数少ない開口部から構成される。これに対して、南側はパティオに面して、バルコニー付きのポルティコ構造の上に住戸が並ぶ。バルコニーは所与の環境的潜在力を生かす生物気候的移行空間として機能する。この要素は季節に応じて、寒い時期はガラスを通して太陽光を採り入れ、暑い時期は簡単なブラインドで風通しの良い日陰のロッジアとなる。この装置の操作は簡単なため、住人もしくはソーシャル・マネージャーに委ねられている。バルコニー空間はプロジェクトの核である。動線の諸機能を解決し、空調機能に寄与し、広々としているため、また入口近くに椅子が置かれて人々の交流を促す。動線スペースを仕切る伝統的な壁は、大きなガラス窓に交換されたため、住戸の内省的レベルや共同体への開かれ方を調整できるようになった。建築的ディテールもこの空間のクオリティに貢献している。凝ったデザインの手摺がマヨルカ式ブラインドの支持体と統合され、日射調整装置の柔軟な使い方ができる。最後に構造を考察しておきたい。この建物はハニカム煉瓦ブロックの耐力壁とCLT(直交集成板)のスラブで建てられ、一方バルコニーにはフレーム構造が見える。そこにバルコニーを支えるマレス砂岩ブロック構造が組み合わされた。ただし、島の北部に当たるこの地域はより湿度が高く、こうした素材は太陽光が当たる壁以外にあまり使われていない。建物の残りの部分は石灰プラスターとコルク粒で仕上げられ、これが石壁も木造構造も保護している。
エスポルレスのプロジェクトは歴史的な街並みとの静かな連続性に基づき進められたのに対して、パルマ・デ・マヨルカではHアルキテクテスがまた別の条件に挑んでいる。このプロジェクトが生まれたエリアは廃校になった小さな学校に占拠されていた。学校はマレス砂岩の耐力壁とコンクリートと煉瓦のスラブによる建物で、コンバージョンができなかった。建築家たちは素材の再利用を検討することを決断し、取壊しで出た廃材を新しい複合建築を建てるための原材料と捉えた。こうして、約140㎥に上る煉瓦とコンクリートの廃材は、基礎の骨材として再利用され、約160㎥のマレス砂岩は、再利用したマレス砂岩とやはり現地で産出された大きな石塊、小石、砂を40%配合した混合コンクリートの巨大なプレファブ・ブロック1,700個に生まれ変わった。この作業の建築的に興味深い点は、再利用という優れたエコロジー的選択だけでなく、彼らがそのプロセスの実務的結果を受け入れるラディカルな方法にある。再利用された素材の性質そのものが、プロジェクトの性質およびプレファブ・ブロックで造られた耐力壁を基本とする建設システムの採用を決定し、建物の形態、構造の合理性、複合的なタイポロジーに沿った配置を直接条件づけた。コンクリート・ブロックは長さ135cm、高さ42cmで、厚さは架構図に応じて64、54、44、34cmと薄くなる。建物のどの高さに使う場合も厚みを10cm減らすことにより、CLTパネルの水平スラブを直接支えることが可能になった。この工法はほぼ原始的な積み重ねのロジックに基づく。複雑なヒエラルキーを設けずに組み合わせたブロックは、建築に直接的で具体的な物質性を取り戻させる。不規則なテクスチャーとマレス砂岩の破片が混ざった巨大なブロックの素材としての性質も、建設工事の粗削りな側面を呼び起こすのに寄与し、そこでは構造と素材が常に剥き出しのままとされた。構造の補完として、横方向の補強壁が階段とエレベーター・コアとともに加えられた。屋内の動線は、フロアごとに7戸のアパートメントで共有するバルコニーで分節化された。1つめのケースと同じく、集合住宅のタイポロジーに即した住戸の間隔は構造スパンを反映しており、ヴォリュームの奥行きをうまく生かして水廻りを中央部に集め、昼のゾーンをパティオ側に、夜のゾーンを道路側に配置することで、自然換気を促す。例外として半地下階とアティック階のいくつかの住戸は、規模の問題から、各戸が構造スパンの2つ分を占有する。建築構造は、段状の耐力壁と木造の水平材でリズムを刻まれたファサードにも現れる。構造体には大きな木製のフレームが嵌め込まれ、閉じた壁面と狭い開口部が交互に現われる。これに、東と西からの日射を調整するために考案されたマヨルカ式ブラインドが組み合わされた。
ロペス・リベラとHアルキテクテスのプロジェクトは、条件は異なるものの、つましさがプロジェクトの批評的原動力になり得ることを証明した。定着した慣習をひっくり返し、より意識的な尺度と刷新された建設知識を生かしている。この姿勢を通して、建築はコンテクストに根を下ろし、また同時に、住宅の新たな方向性を提起する。この探求の襞の間にこそ、これら建築家の価値と反復可能性の希望が認められる。
「ソーシャル・ハウジング」
Augst, Basel Landschaft,
参照:本誌 pp.24–33
- 「ソーシャル・ハウジング」
- 規模 敷地面積 9,300㎡
- スケジュール 設計競技 2014年/第1区画施工 2019-21年/第2区画施工 2021–23年
- 所在地 Augst, Basel Landschaft, Switzerland
- 撮影 Maxime Delvaux, Mikael Olsson
「ソーシャル・ハウジング2104」
Augst, Basel Landschaft,
設計=
参照:本誌 pp.24–33
- 「ソーシャル・ハウジング2104」
- 規模 敷地面積 9,300㎡
- スケジュール 設計競技 2014年/第1区画施工 2019-21年/第2区画施工 2021–23年
- 所在地 Augst, Basel Landschaft, Switzerland
- 撮影 Maxime Delvaux, Mikael Olsson
